架空建設 CEO
架空野 住香
私が架空建設を始めたのは、三十代前半でした。大学を卒業して就職した設計会社は都心にある大手の企業です。行政の大きな仕事を受注していて、美術館や競技場など手掛けるその仕事は興奮を覚えるようなプロジェクトばかりでした。責任とやりがいを感じながら仕事をこなしていたある時期、そこにある街と溶け合わないような建築物ばかり造っていることに気づき始めたのです。
まもなく私は旅に出ていました。計画もなく、あてどもない旅には心細い所持金のまま。きっと若気の、世間の苦労もしらない衝動だったのかも知れません。でもそこで目にした地球は、計画など意味をなさないほどの広大さでした。行く先々で出会った人たちは、肌の色も言葉さえ通じない者同士なのにどこか深いところで通底し合う同じ、人でした。
そしてその人たちが住む街はどこも、ただそこにいるだけで、なんの前提もなく受け入れてくれるような、包まれているような感覚があったのです。
私は安宿の天井を眺めながら、ある時は野宿する大樹の葉の間から望む夜空を見ながら、自分が携わってきた建築物を想いました。その場にいながらも、拒絶されているような感覚。私はその時はじめて、自分が旅に出た衝動の原因を知ったのです。
架空建設ではまず始めに、どの街で暮らすのか、ご依頼者様がお考えの街がどのような特徴をもち、その地域性や郷土の歴史まで踏まえてともに考える。そのうえで土地や家の外観をご提案させていただくスタイルに至りました。
私が長い旅の道すがら、出会った周りの人を幸せにする四種の神器。これが何かは明かせませんが、きっとご依頼者様は気づかれてしまうことでしょう。